ブルンナー・ムンチェル検定とは
ブルンナー・ムンチェル検定とは,対応のない2群の差の検定(対応のないt検定)のノンパラメトリック版です.順序尺度以上のデータに対して用いることができます.
ノンパラメトリックの対応のない2群の差の検定としては,マンホイットニーのU検定が一般的に使われますが,ブルンナー・ムンチェル検定は2群の等分散性がない場合にも使うことができます.
ブルンナー・ムンチェル検定の検定統計量はサンプルサイズが小さい場合はt分布に従い,大きい場合は標準正規分布に従います.
サンプルサイズが非常に小さい場合(n<8)は並べ替え検定を行う必要があります.
ブルンナー・ムンチェル検定の手順
ブルンナー・ムンチェル検定は以下の手順で行います.
① 仮説の設定
帰無仮説は「2群の母集団に差がない」,対立仮説は「2群の母集団に差がある」として設定します.
② 有意水準の決定
有意水準α=0.05,もしくは0.01で設定します.一般的には有意水準α=0.05と設定されます.
③ 検定統計量の算出
具体的な計算手順は,Excelを用いた方法で解説しています.
④ p値の算出
検定統計量からp値を算出します.サンプルサイズによって用いる分布が異なります.
④ 有意差判定
・p値<有意水準であれば,帰無仮説は棄却されて対立仮説を採択 → 「2群の母集団に差がある」
・p値\(\geq\)有意水準であれば,帰無仮説は棄却されない → 「2群の母集団に差があるとは言えない」
統計的仮説検定の考え方や用語については,以下のページで解説しています.
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例題で用いるデータと仮説の設定
例題では以下のサンプルデータを用います.2つの会社の従業員から調査した,働き方に対する満足度(5段階評価)になります.
帰無仮説は「働き方の満足度に差がない」となり,対立仮説は「働き方の満足度に差がある」と設定します.
有意水準α=0.05で検定は行います.
Excelを用いた計算方法
Excelを用いたp値の計算手順について説明します.
以下のような表を作成して,検定統計量Wとp値を求めます.(16行目以降もサンプルデータは入力されています)
各セルの入力式は以下のようになります.
・D3:=RANK.AVG(C3,C$3:C$13,1)
・D14:=RANK.AVG(C14,C$14:C$26,1)
・E3:=RANK.AVG(C3,C:C,1)
・F3:=(E3-D3-K$3+J$3)^2
・F14:=(E14-D14-K$4+J$4)^2
・I3:=COUNTIF(B3:B26,”=A”)
・J3:=(I3+1)/2
・K3:=SUM(E3:E13)/I3
・L3:=(1/(I3-1))*SUM(F3:F13)
・I6:=ABS((I3*I4*(K4-K3))/((I3+I4)*SQRT(I3*L3+I4*L4)))
・I7:=((I3*L3+I4*L4)^2)/((((I3*L3)^2)/(I3-1))+((I4*L4)^2)/(I4-1))
・I8:=TDIST(I6,I7,2)
入力式と計算手順について解説します.
① データの入力【B列】【C列】
群(会社)と値(満足度)を各1列にデータを入力します.群は上下で分かれるように入力します.
② 群内順位を求める【D列】
値を群ごとの順位データに変換します.
順位データはRANK.AVG関数を用いて計算します.RANK.AVG関数の引数は以下になります.
RANK.AVG(“順位に変換する値”,”順位の対象となるデータ群(各群のデータ範囲)”,1)
※ 例題では値が小さいほど順位が高くなるように計算します.
群ごとに対象のデータ範囲が異なるので注意してください.
③ 全体順位を求める【E列】
2群を合わせた順位に変換します.②と同様にRANK.AVG関数を用いて計算します.
”順位の対象となるデータ群”は,データの範囲はAとBを合わせた範囲になります.
④ サンプルサイズを求める【I3】【I4】
各群のサンプルサイズを求めます.COUNTIFS関数を用いて,「B列」に”A”と”B”がいくつあるかカウントします.
⑤ 各群の平均群内順位を求める【J3】【J4】
各群の群内順位の平均を計算します.郡内順位を用いずに,以下の式で簡単に求めることができます.
⑥ 各群の平均全体順位を求める【K3】【K4】
各群の全体順位の平均を計算します.群ごとに全体順位の和を,サンプルサイズで割ることで求めることができます.
⑦ 各群の順位データの不偏分散を求める【F列】【L3】【L4】
群ごとに順位データから不偏分散を計算します.不偏分散S2は以下の式で求めることができます.
Rkは各全体順位,rkは各群内順位,Rは⑥で求めた平均全体順位になります.
ExcelではΣ内の値(データごとの平均からの差)をF列で計算してから,SUM関数を用いて不偏分散を計算します.
⑧ 検定統計量Wを求める【I6】
検定統計量を計算します.検定統計量Wは以下の式での求めることができます.
⑨ 自由度fを求める【I7】
t分布の自由度を計算します.自由度fは以下の式で求めることができます.
⑩ p値を求める【I8】
検定統計量と自由度からp値を計算します.サンプルサイズが小さい場合,検定統計量Wは自由度fのt分布に従います.
Excelではt分布のp値をTDIST関数で求めることができます.
TDIST関数の書き方:=TDIST(“検定統計量”,”自由度”,2(両側確率))
例題では計算結果からp値は0.0309…となりました.よって帰無仮説は棄却され「2つの会社で働き方の満足度に差がある」といった結論が得られます.
※ 自由度が少数の場合は以下の数式を用いることで,p値を算出することができます.
=MIN(1-BETA.DIST(I7/(I7+I6^2),I7/2,1/2,TRUE),BETA.DIST(I7/(I7+I6^2),I7/2,1/2,TRUE))
補足① サンプルサイズが大きい場合
Excelを用いた計算例では,サンプルサイズが小さい場合のブルンナー・ムンチェル検定を紹介しました.サンプルサイズが大きい場合は,検定統計量Wは標準正規分布に近似することができます.
サンプルサイズが大きい場合の目安としては,両群を合わせたデータ数が50以上の場合です.
標準正規分布のp値はExcelでは,NORMSDIST関数を用いて計算することができます.
標準正規分布のp値(両側)の計算式:=2*(1-NORMSDIST(“検定統計量”))
補足② データの前提条件
補足①に加えて,用いるデータの前提条件を解説します.
① ノンパラメトリックなデータ
ブルンナー・ムンチェル検定はノンパラメトリックな(=正規分布でない)データに対して行います.用いるデータが正規分布と仮定できる場合は,ブルンナー・ムンチェル検定を行うことも可能ですが,多くの場合で対応のないt検定を行います.
② 順序尺度
名義尺度のデータに対しては用いることができません.名義尺度はデータの大小に意味が無い,つまり順位和を求めることができないことから明らかです.名義尺度のデータの差や関連性を分析する際は,クロス集計表を用います.
③ 対応のないデータ
比較する2つのグループは対応のない場合である(異なる個体のデータ)である必要があります.対応のある場合は,ウィルコクソンの符号順位和検定を行いましょう.
》対応のある・対応のないとは
》ウィルコクソンの符号順位和検定
④ 不等分散の場合
冒頭で説明したようにブルンナー・ムンチェル検定は,マンホイットニーのU検定において2群の等分散性が仮定できない場合に行う検定方法です.等分散性が仮定できる場合は,マンホイットニーのU検定を行うのが一般的です.